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土のものがたり(第8話)~ 天空の音色 [土ものがたり]

あれから

もっともっと時間がたった。


ケヤキの大樹も

なくなっていた。




私の姿もなくなっていた。


私がどんな姿をしていたかも

忘れてしまった。



土だったのか

水だったのか

火だったのかさえ



もう忘れてしまった。



でも

たしかにわかることがある。



いま

私がいるってこと。



いま

ここに

なんだかものすごく温かい

ものすごくなつかしい

言葉でどういえばいいんだろう


嬉しくて

切なくて

涙が止まらない音色が飛び交っている。



私もその音色の中にいて

一緒に飛び交っている。



私は土でもない

形あるものでもない。



私は音色。



懐かしい音色たちに囲まれて

懐かしい光に抱きしめられて



いま

こうしている。

そう


わたしはいま

いるんだ。

土のものがたり(第7話)~風の記憶 [土ものがたり]

オカリナぽーるです。

前回の連載も終わりに近づいてきました。


第7話です。

^^^^^^



私はその少年の手の中で

いろんな音を奏でた。


楽しい音

おもしろい音

明るい音

悲しい音

つらい音

勇気の出る音

落ち着く音・・・・




また何年も年月が流れた。


その少年もおじいさんになって

旅立って行った。



私の中に

何人の少年の

何人の少女の息が吹き込まれ

風のかなたに音を届けたのか



もう覚えていない。



小さなケヤキの苗木が

いつしか

太く、高くなっていて、

そびえたつ大木になっていた。




いまも

風が吹いている。


どこから吹いてくるのかわからない。

どこへ吹いていくのかわからない。


きっと風は

どんな音も

どんな音色も

おぼえていて


どこからか、吹いてきて


どこかへ、音色を届けにいくんだ。





でも

そのことを

私ははじめから知っていたような気がする。

土くれだった

はじめから…・





そうなんだ・・・・




風が音を運んでいく、行先は、


それは


ふるさと。




すべてのたましいのふるさと。


土も

木も

火も

水も

風も

星も




何もかも帰っていく


すべてのふるさとに、



みんなが

私を吹いて

私から出してくれた音がある。



風はそれをおぼえている。





きっと


そこからやってきて

そこへ帰っていくんだ。

土のものがたり(第6話)~再生 [土ものがたり]

オカリナぽーるです

きのうの創作物語の続きです。


****




あれから何年たっただろう・・・・



どう言う順序で

どんな人の手に移って

この店にあるのか


私にはわからなかった。




ずいぶん長い間

この店の棚に飾られていたような気がする。



何十年

音を出していなかったんだろう・・・・



でもある日


この店を訪れた


また一人の少年が




私の歌口から息を吹き込んだ。



「懐かしい音がする」



なぜなつかしいのかわからないけど


少年の目から涙が流れた。



「どこかで会ったような音がする」



なにか


少年のたましいの記憶に触れたような音色


でもそれが何か

少年にはわからなかった。




私は

その少年と出会った。



少年は

私のなかに命を吹き入れて

音を奏でる。




いまわたしは

この少年と一緒にいる。


今 この少年の手の中にあって

息を吹き込んでもらっている。




私の中から鳴る音が

いったいどこからくる音かわからない。


でも

わからなくても涙を誘う

懐かしい音。




そうか、

こうして鳴るこの音が

私のふるさとの音なのか。



私はこの故郷からやってきて、

いつもこの故郷に帰っているのか。


そして私を吹く人の魂を

私のふるさとに案内しているのかと・・・


気がついた。



少しのことだけれども、


気がついた。

土のものがたり(第5話)~わかれ [土ものがたり]

オカリナぽーるです

前回の創作物語の続きです。


****


わたしは

雨の時も

晴れの時も

少年といっしょだった。



暑い夏も

寒い冬も

少年といっしょだった。


何年も

何年も


一緒だった。




私は少年の一部で

少年もまた

私の一部だった。



うれしいとき

一緒に笑って



悲しい時

一緒に泣いた。







そして


何年も年が過ぎた。





少年はすっかりお爺さんになった。





おじいさんになった少年は

私に息を吹き込んで

音を鳴らした。



その音を聞きながら

少年は言った。

「ありがとう」




そして

もう息も細くなってきた少年は

「僕のふるさとに帰ります」と最後に言った。

やがて少年は動かなくなった。


でも

私の中に

少年の息が

いのちになって溶け込んだ。


私は

さようならと言わなかった。



どんな形になっても

私たちはいつも一緒だから・・・・

土のものがたり(第4話)~かなで [土ものがたり]

オカリナぽーるです

前回の創作物語の続きです。


****

土くれから再び形になって

音の出る何かになった私を


一人の少年が見つけ出した。



少年は

わたしを手に取って

自分の故郷に帰った。





それ以来ずっと私は少年と一緒だった。


少年は楽しい時

うれしい時 悲しい時もいつも

私に息を吹き込んだ。



心地よい音がした。


森の木も

吹く風も

川の水も踊った。



私の音は

こうしてみんなを楽しませた。



水色の朝

私は小鳥と一緒に歌った。



セルリアンブルーの昼

私は青空高く歌った。


サーモンピンクの夕暮れ

私は沈む夕日を見送って歌った。



ダークブラウンの月夜

私はコオロギたちと月を慰めた。


少年はうれしかった。

土のものがたり(第3話)~出会い [土ものがたり]

オカリナぽーるです

前回の創作物語の続きです。


****


ある日


深い地の底から掘り出され、

こねられて

練られて

釜の中で火を入れられた私は



音の出る何かの形になった。


そして私はこの森から運び出され

どこか知らないところに並べられた。



私は今何者なのか

どんな形をしているのか

何のためにここにいるのか

それは私にはわからなかった。




また何日も時間がたった。


あるとき棚に並べられている私を見た少年が


私をとりあげて息を吹きいれた。



音がした。



少年は満足した。



そして少年は私を持って

どこか知らない街へ

少年の住む街へ私を連れて行った。




これから

私は

この少年と一緒に生きていくんだ・・・・



そう感じた。

(続く)

土のものがたり(第2話)~音の創造 [土ものがたり]

オカリナぽーるです

前回の創作物語の続きです。


****

あれから何千年たったんだろう。

私は

どんな姿で

どこにいたのか覚えていない。




もう

形もなくなって

細かい土になっていたのかもしれない。


そして

あるとき職人が私を掘り上げて

水でこね、練ってねって粘土にした。


こうして私は何か形のあるものによみがえろうとしていた。



私は焼き芋のような形になって、

窯の中で焼き固められた。


職人は焼きあがった私を見てにっこりした。


熱が冷めたころ

職人は私の中に息を吹きいれた。



職人のいのちの息が私に吹き込まれて

その息が私を通って音になった。


音は

空に
森に

響き渡った。



職人は満足した。

(続 く)

土ものがたり~土の記憶 [土ものがたり]

オカリナぽーるです。

きのううかんできた詩をきっかけに

「古代の土笛」に思いを寄せた即興演奏を
海辺で思いっきりやって楽しみました。


それで
潮風を受けて気持ち良くなっていたのですが、

頭の中に
古代の土笛が
オカリナになって現代に届くまでの
壮大な物語が浮かんできて

あわててメモに書き留めました。

きょうお届けするお話は
そんな私のオカリナ空想物語です。


どうか
飽きずに読んでくださいね。

************
土ものがたり(第1話)土の記憶


土笛は思う。



私はどこから来たのだろうか?

どうして私はいるのだろうか?

わからなくなってしまった。



もう何万年も前のような気がする。

誰かが私を創った。

だから、創った方の息吹を時々感じたら、

私はなんだか懐かしくて幸せになる。



風の香りや

木漏れ日の光を感じる時、

そんな幸せな気持ちをふと感じることがある。



何回つくられて

何回、土に戻って

何回生まれ変わってきたんだろうか。

そんなことはもう覚えていない。




何万年の間

私はあるときは笛になって

あるときは花びんになって

あるときはお茶碗になって

そしてまた笛になったような気がする。



この何万年の間

私の中に幾千万の命が加わった。

森の落ち葉、

虫や動物、

いろいろな命が、

私の中に溶け込んでいった。


こうして今私はあるんだなとときどき思う。



もっと時間がたった。

もう
そのこともぼんやりしか覚えていない。

(次回に続く)

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