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土のものがたり(第6話)~再生 [土ものがたり]

オカリナぽーるです

きのうの創作物語の続きです。


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あれから何年たっただろう・・・・



どう言う順序で

どんな人の手に移って

この店にあるのか


私にはわからなかった。




ずいぶん長い間

この店の棚に飾られていたような気がする。



何十年

音を出していなかったんだろう・・・・



でもある日


この店を訪れた


また一人の少年が




私の歌口から息を吹き込んだ。



「懐かしい音がする」



なぜなつかしいのかわからないけど


少年の目から涙が流れた。



「どこかで会ったような音がする」



なにか


少年のたましいの記憶に触れたような音色


でもそれが何か

少年にはわからなかった。




私は

その少年と出会った。



少年は

私のなかに命を吹き入れて

音を奏でる。




いまわたしは

この少年と一緒にいる。


今 この少年の手の中にあって

息を吹き込んでもらっている。




私の中から鳴る音が

いったいどこからくる音かわからない。


でも

わからなくても涙を誘う

懐かしい音。




そうか、

こうして鳴るこの音が

私のふるさとの音なのか。



私はこの故郷からやってきて、

いつもこの故郷に帰っているのか。


そして私を吹く人の魂を

私のふるさとに案内しているのかと・・・


気がついた。



少しのことだけれども、


気がついた。

土のものがたり(第5話)~わかれ [土ものがたり]

オカリナぽーるです

前回の創作物語の続きです。


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わたしは

雨の時も

晴れの時も

少年といっしょだった。



暑い夏も

寒い冬も

少年といっしょだった。


何年も

何年も


一緒だった。




私は少年の一部で

少年もまた

私の一部だった。



うれしいとき

一緒に笑って



悲しい時

一緒に泣いた。







そして


何年も年が過ぎた。





少年はすっかりお爺さんになった。





おじいさんになった少年は

私に息を吹き込んで

音を鳴らした。



その音を聞きながら

少年は言った。

「ありがとう」




そして

もう息も細くなってきた少年は

「僕のふるさとに帰ります」と最後に言った。

やがて少年は動かなくなった。


でも

私の中に

少年の息が

いのちになって溶け込んだ。


私は

さようならと言わなかった。



どんな形になっても

私たちはいつも一緒だから・・・・

土のものがたり(第4話)~かなで [土ものがたり]

オカリナぽーるです

前回の創作物語の続きです。


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土くれから再び形になって

音の出る何かになった私を


一人の少年が見つけ出した。



少年は

わたしを手に取って

自分の故郷に帰った。





それ以来ずっと私は少年と一緒だった。


少年は楽しい時

うれしい時 悲しい時もいつも

私に息を吹き込んだ。



心地よい音がした。


森の木も

吹く風も

川の水も踊った。



私の音は

こうしてみんなを楽しませた。



水色の朝

私は小鳥と一緒に歌った。



セルリアンブルーの昼

私は青空高く歌った。


サーモンピンクの夕暮れ

私は沈む夕日を見送って歌った。



ダークブラウンの月夜

私はコオロギたちと月を慰めた。


少年はうれしかった。

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